卓越した観察眼と画力の向こうに〜失踪日記・アル中病棟日記

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先月、10月13日に、漫画家の吾妻ひでお先生がご逝去されました。

吾妻ひでお先生は、

可愛らしいだけではなく、描写力が異様なくらい高い絵と、
自由自在な線が描き出す世界観、
突き放すような、クールで独特な、突き抜けたギャグセンス、
そして、哲学的な香りさえするSF物など、
いわゆる今の「萌え絵」や美少女ものなどのベースを作るような、
実に様々な作品を描かれ、
私の中で「天才漫画家」のお一人でした。

 

吾妻ひでお先生のご冥福をお祈りするとともに、
去年、「エコエコアザラク」で有名な古賀新一先生も亡くなられているため、

両先生方が大活躍されていた、アラフィフ世代の私にとっては、また一つ淋しい気持ちがするニュースでした。

 

このニュースで触れ、びっくりしたことが。

「吾妻ひでお先生の代表作は?」と聞かれ、出た作品が、


若い世代(30代以下)の方は、「失踪日記」「失踪日記2 アル中病棟」、


私のようなアラフィフ以上の方は、「ふたりと5人 」「やけくそ天使 」「オリンポスのポロン 」「ななこSOS」などの作品をイメージする方が多かったようです。


特に、「オリンポスのポロン」と「ななこSOS」は、テレビアニメ化もされたので、ご記憶にある方も多いかもしれませんね。

(私は、不思議な雰囲気がするSF作品の「美美 」が大好きでした。)


吾妻先生の描く女の子は、とにかく可愛くて、愛らしくて、魅力的で…!

女の子の私でも夢中になって読みました。

…と前置きと思い出話が長くなりましたが、本題へ。

 

卓越した描写力、観察眼、そして突き放した、クールでユーモラスな視点


吾妻ひでお先生の訃報に触れ、
以前から読みたかった「失踪日記」「失踪日記2 アル中病棟」を読んでみました。

 
素晴らしい作品だ、という評判は以前から知っていましたが、
私はまだ読んでいませんでした。

大好きだった漫画家さんが、失踪したり、アルコール依存症で入院したり…という内容に触れるのが今まで少し怖かったのかもしれません。

読んだら、やっぱりすごかったです!
今、ちまたにあふれる「エッセイコミック」とはレベルが違う!
(どうでもいいけど、エッセイコミックって、それなりのお値段の割に、中身がほとんどないと感じられるものも多いですよね…)

 

ある日突然、「タバコを買いに行く」とふらりと家を出たまま、失踪してしまった吾妻先生。

自殺も何度かしてみますが、このように「生きる方向へ」、どんどん進んでいきます。

壮絶そうなのに、なぜかのんびりと自由で健康的(?)なホームレス生活、

ひょんなことから名前を「東英夫」と名乗り、ガス会社にいつの間にか就職、配管工の資格までとって現場に出たり…。
(超一流の売れっ子漫画家さんなのに!笑)

 

吾妻先生もかなりの個性的なキャラクターですが、

周りの人もキャラが濃すぎです(特にガス会社の皆さん)

 

多分、実際はいろいろと大変だったんだろうけど、
どこか突き放したような、俯瞰した視点でご自身のことも周りのことも見ているので、
冷静でクールでありながらも、

全体的におおらかでユーモラスに描かれています。

 

後半では、お酒のエピソードと絡めながら、吾妻先生の半生記が描かれていて、

リアルタイムでブレイクしていく様を見ていた世代の私にとっては、とても興味深かったです。
(島本和彦先生の「アオイホノオ」的な)

 

この「失踪」のきっかけの一つともなったのが「お酒」でした。

アルコール依存症になり、3ヶ月入院した時のことを詳しく描かれたものが、こちらです。
なんと、8年をかけて作られた作品です。

驚愕だったのは、
当時、重度のアルコール依存症でご入院され、
常人であれば、記憶も曖昧であっただろう時期のことも、

他の入院患者さんのキャラクターや、

入院生活、

可愛らしい看護師さんやドクターなど、

ご自身の心や身体の動きも含めて、
とても克明に、生き生きと描かれていること。
とにかく、俯瞰したかのような観察眼が凄いです。

 

一つの群像劇としても、とても秀逸だな、と感じました。


作中の中で、アルコール依存症について、基本的なことなどもしっかりと描かれています。

その辺の説明も、説教臭くなく、
うまくわかりやすく描き、表現しているので、
やっぱり吾妻先生って凄いな、と改めて思ったり。

 

私自身、仕事で様々な依存症の人と接する時も多いのですが、

改めて依存症やアルコール依存症について、
依存症の人も、そうでない人もご一読して欲しい本だな、と思いました。

とにかく、1ページの中で描かれている内容が、濃いけど、とても興味深く、

ページをめくる手が止められませんでした。

 

ラストの3Pは、さりげないシーンのようでいて、とても感慨深いものを感じさせました。

とても印象に残る、スルメのように後になってジワジワと心に響いてくる作品です。


やっぱり、天才って、どんなことがあってもやっぱり天才
なんだな、と。


アルコールや何かの依存症の人はもちろん、

「そんなの関係ないよ」って人や、

吾妻ひでお先生のことを全然知らない方にも、
是非一度、お手にとって、ご一読いただきたい、凄い作品です。

それでも、人生は進んでいく。

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天音 結里愛

天音 結里愛ライトワーカー、スピリチュアルティーチャー、現代巫女

投稿者プロフィール

チャネリングやエネルギーワークを中心に、クライアントの潜在意識の奥深くからのカルマやブロックからの解放、トラウマなどの深いレベルからの癒しを行いながら、潜在意識の封印解除と能力開発を行っている。

見えない世界からのメッセージを伝えながら、自己の深い癒しと変容・覚醒へ導き、自分自身が、本来持っている、豊かな愛の中で、ハート、魂、存在すべてが輝いて生きられるお手伝いをしている。

看護師として21年あまり、一部上場企業に総合職としても、キャリアあり。

小学生の頃から、大の本好き。
読書で本の世界の中に没入している時が至高の喜びの一つ。
それぞれの本が持つ、無限の世界に魅せられ、今もたくさんの本たちと共に暮らし、人生を歩んでいる。

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